新潟地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決 2000年2月25日
原告
井上信弘
右訴訟代理人弁護士
中村洋二郎
被告
小千谷税務署長 今市彦市
右指定代理人
加藤裕
同
須藤哲右
同
阿部昭雄
同
小島一俊
同
田口勉
同
永塚光一
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成七年三月一三日付けで原告の平成三年分の所得税についてした更正決定及び過少申告加算税賦課決定の各処分の全部を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件課税処分の経緯
原告は、平成四年三月一六日までに、被告に対し、平成三年分所得税の確定申告において、別表一の当初申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、平成七年三月一三日付けで、同表の更正・決定欄記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、「本件更正処分」と併せて「本件課税処分」という。)をなし、同日原告に通知した。
原告は、これを不服として、同年四月一七日、被告に対し、本件課税処分に対する異議申立てをしたが、被告は、同年九月二九日付けでこれを棄却し、同年一〇月二日、異議決定書謄本を原告に送達した。
原告は、同年一〇月三〇日、国税不服審判所長に対し、右棄却決定に対する審査請求をなしたが、同所長は、平成九年一二月一九日付けでこれを棄却し、平成一〇年一月一五日、審査裁決書謄本を原告に送達した。
2 本件課税処分の違法性
しかしながら、本件課税処分は、原告の所得を過大に認定した違法なものである。
3 よって、原告は、被告に対し、本件課税処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張は争う。
三 抗弁(本件課税処分の適法性)
1 本件課税処分の根拠
原告の平成三年分の所得金額及び納付すべき税額の算定根拠は、次のとおりである。
(一) 総所得金額 三八二万五〇〇〇円
右金額は、給与所得の金額であり、原告の確定申告額と同額である。
(二) 分離課税の長期譲渡所得金額 二億四八四三万一二七五円
右金額は、後記(1)収入金額から(2)取得費及び(3)特別控除額を控除した金額である。
(1) 収入金額 二億八二六五万一三八四円
右金額は、原告が平成三年一月二九日に別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件第一土地」という。)を南魚沼郡土地開発公社(以下「開発公社」という。)に対して譲渡して得た代金二億七七二九万六〇七八円及び同年四月二三日に別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件第二土地」といい、本件第一土地と併せて「本件土地」という。)を建設省北陸地方建設局信濃川工事事務所(以下「建設局」という。)に譲渡して得た代金額五三五万五三〇六円との合計額であり、原告の確定申告額と同額である。
(2) 取得費 一四一三万二五六八円
右金額は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四第一項の規定により、本件第一土地に係る譲渡収入金額二億七七二九万六〇七八円の一〇〇分の五に相当する金額一三八六万四八〇三円及び本件第二土地の譲渡収入金額五三五万五三〇六円の一〇〇分の五に相当する金額二六万七七六五円との合計額である。
(3) 特別控除額 二〇〇八万七五四一円
右金額は、次のア及びイの金額の合計額である。
ア 本件第一土地の譲渡に係る特別控除額 一五〇〇万〇〇〇〇円
本件第一土地の譲渡は、措置法三四条の二(特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除。ただし、平成五年法律第一〇号による改正前のもの。)に規定する譲渡に該当するので、同土地の譲渡所得の金額の計算上、特別控除額は、同条一項一号の規定により一五〇〇万円となる。
イ 本件第二土地の譲渡に係る特別控除額 五〇八万七五四一円
本件第二土地の譲渡は、措置法三三条の四(収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除。ただし、平成七年法律第五五号による改正前のもの。)に規定する譲渡に該当するので、同土地の譲渡所得の計算上、特別控除額は、同条一項の規定により五〇八万七五四一円となる。
なお、本件土地はいずれも譲渡した年である平成三年一月一日において所有期間が五年を超えるものであるから、本件土地の譲渡にかかる所得は長期譲渡所得として分離課税の対象となる(措置法三一条一項(ただし、平成三年法律第一六号による改正前のもの。)及び二項(ただし、平成七年法律第五五号による改正前のもの。))。
(三) 所得控除額 二五五万七五六〇円
右金額は、社会保険料控除六〇万四五六〇円、生命保険料控除五万〇〇〇〇円、損害保険料控除三〇〇〇円、扶養控除一五五万円及び基礎控除三五万円の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。
(四) 課税総所得金額 一二六万七〇〇〇円
右金額は、前記(一)の総所得金額三八二万五〇〇〇円から前記(三)の所得控除額二五五万七五六〇円を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(五) 課税分離長期譲渡所得金額 二億四八四三万一〇〇〇円
右金額は、前記(二)の分離課税の長期譲渡取得金額二億四八四三万一二七五円から通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。
(六) 納付すべき額 三七二一万六一〇〇円
右金額は、次の(1)及び(2)の金額の合計額から(3)の金額を控除した金額(ただし、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(1) 課税総所得金額に係る税額 一二万六七〇〇円
右金額は、前記(四)の課税総所得金額に所得税法八九条(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。)の規定による税率一〇パーセントを乗じて算出した金額である。
(2) 課税分離長期譲渡所得金額に係る税額 三七二六万四六五〇円
右金額は、前記(五)の課税分離長期譲渡所得金額に措置法三一条の二第一項(ただし、平成七年法律第五五号による改正前のもの。)並びに第二項二号(ただし、平成四年法律第一四号による改正前のもの。)の規定による税率一五パーセントを乗じて算出した金額である。
(3) 源泉徴収税額 一七万五二〇〇円
右金額は、原告が給与の支払いを受けた際に源泉徴収された所得税額であり、原告の確定申告額と同額である。
2 本件更正処分の適法性
原告の平成三年分の所得税に係る納付すべき税額は、前記1(六)のとおり、三七二一万六一〇〇円となるところ、本件更正処分における納付すべき税額は三七一九万三六〇〇円であり、その範囲内であるから、本件更正処分は適法である。
3 本件賦課決定処分の適法性
通則法六五条一項の規定により、前記1(六)の納付すべき税額三七二一万六一〇〇円及び原告の確定申告における還付金の額に相当する税額四万八五〇〇円の合計額三七二六万〇〇〇〇円(ただし、通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額三七二万六〇〇〇円、並びに通則法六五条二項の規定により、前記1(六)の納付すべき税額三七二一万六一〇〇円及び原告の確定申告における還付金の額に相当する税額四万八五〇〇円の合計額三七二六万四六〇〇円から五〇万〇〇〇〇円を控除した後の金額三六七六万〇〇〇〇円(ただし、通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一八三万八〇〇〇円とを合計すると五五六万四〇〇〇円となるところ、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額は五五六万一〇〇〇円であり、その範囲内であるから、本件賦課決定処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は全て認める。
五 再抗弁(所得税法六四条二項(保証債務の特例)の適用)
1 保証債務の成立
(一) 有限会社八色産業(以下「八色産業」という。)は、昭和六二年五月一日、新潟縣信用組合(以下「新潟縣信」という。)に対し、額面一億二六五〇万円及び四二五万円の約束手形二通を振り出し(以下、右振出しによって生じた債務を「本件第一債務」という。)、原告は、本件第一債務を連帯保証した。
(二) 八色産業は、小千谷産業株式会社(以下「小千谷産業」という。)から、昭和六三年四月二一日から平成二年八月三一日までの間に、二九回にわたり、合計九八二八万五〇〇〇円を借り受けたほか、手形割引七回(合計一一三五万円)、小切手割引等二回(合計四一万五〇〇〇円)を受け、合計一億一〇〇五万円の債務を負担し(以下、これらを併せて「本件第二債務」という。)、原告は、本件第二債務を連帯保証した。
2 資産の譲渡及び保証債務の履行
原告は、抗弁1(二)(1)記載のとおり、平成三年一月二九日、開発公社に対し、本件第一土地を代金二億七七二九万六〇七八円で売却し、右売却代金をもって本件第一債務につき一億五八八〇万七〇〇〇円、本件第二債務につき一億一〇〇五万円の合計二億六八八五万七〇〇〇円を代位弁済した。
3 求償権行使の不能
以下の事情に照らせば、本件課税処分当時、八色産業は、事実上倒産ないしこれに準ずるような状況におかれており、資産状況、経営状態等総合的見地から判断して求償権の行使ができない状況にあったというべきである。
(一) 多額の繰越損失
八色産業の資本金は一〇〇〇万円にすぎないが、同社の繰越損失は、平成三年三月期は一億二二八九万二九三二円、平成四年三月期は八三四五万七九九一円、平成五年三月期は七二四一万一七九〇円、平成六年三月期は七一〇三万三六三七円であった。資本金がわずか一〇〇〇万円の有限会社である八色産業が数年の間七〇〇〇万円を超える累積債務を抱えていた状態は、事実上、倒産に瀕していたことを示している。
(二) 所有不動産の強制競売
八色産業は、平成五年九月、本店事務所が所在する土地建物につき、小千谷産業から、強制競売の申立てを受け、平成六年五月には他のほとんどの八色産業所有の不動産も同様に強制競売の申立てを受け、平成八年には本店事務所所在地の土地建物が落札され、その他の同社所有不動産のほとんどについてもまもなく落札された。
(三) 売上及び利益
八色産業は、平成三年から平成六年まで、経理上、売上及び利益を計上しているが、売上に関しては、本件土地譲渡の条件であった土地上に積んであった残土を撤去したものの処分の売上も含まれているところ、これはいわば残務整理的な一時的な処分の売上とみるべきものであるし、仮にこれらの売上を事業活動によるものと認めたとしても、次に述べる建設仮勘定計上金額の費用への計上漏れ及び簿外債務による負債を考慮すれば、別表二実際当期利益欄記載のとおりとなり、八色産業には利益は生じていなかったものである。
(1) 建設仮勘定
八色産業の各事業年度の貸借対照表中、建設仮勘定科目に計上している金額は、砂利採取許可の条件である砂利採取跡の埋め戻し費用であり、本来売上に付随して経費に振替えて計上すべきものを失念したものである。
(2) 簿外支払利息
八色産業は、平成三年から平成六年にかけて、簿外において、総額約一七〇〇万円もの支払利息債務を負担していた。
4 手続的要件の充足
原告は、請求原因1の確定申告の際、確定申告書に所得税法(以下「法」という。)六四条二項の規定の適用を受ける旨及び別表三記載のとおりの事項を記載して提出した。
以上のとおり、原告の本件土地の譲渡は本件第一債務及び本件第二債務に関する保証債務を履行するためになされたもので、かつ、原告は八色産業に対し右保証債務の履行に伴う求償権の行使ができないこととなったものであるから、右保証債務の履行分は、法六四条二項により回収することができないこととなった分として分離長期譲渡所得の計算上なかったものとみなすべきである。しかるに、被告は、法六四条二項の解釈、適用を誤り、二億四八二八万一〇〇〇円の分離長期譲渡所得を認定したものであるから、本件課税処分は違法というべきである。
六 再抗弁に対する認否及び反論
1 再抗弁1の事実は認める。
2 同2の事実中、原告が開発公社に対し本件第一土地を代金二億七七二九万六〇七八円で売却し、右売却代金をもって本件第二債務につき一億一〇〇五万円を弁済したことは認め、本件第一債務につき一億五八八〇万七〇〇〇円を弁済したことは否認する。
本件第一債務については、原告が右売却代金のうち一億五八八〇万七〇〇〇円を八色産業に対して貸し付け、しかる後に八色産業が右借受金をもって本件第一債務の弁済に充てたものであるから、原告が保証債務を履行したものとはいえない。
3 同3の事実中、本件課税処分当時、八色産業は、事実上倒産ないしこれに準ずるような状況におかれており、原告による求償権の行使ができない状況にあったとの点及び八色産業に利益が生じていなかったとの点は否認する。
八色産業は、別表四記載のとおり、<1>原告からの借入金残高が、平成三年三月期から平成六年三月期までの三年間で約半分に減少していること、<2>平成三年一月二九日以降も事業を継続して当期利益を計上していること、<3>平成三年四月一三日、新潟県南魚沼郡大和町一村尾二二八三―一六の土地を二〇〇万円で、平成四年九月二七日、新潟県南魚沼郡大和町一村尾二二八三―一七の土地を二六〇万円でそれぞれ購入し、平成六年にパワーシャベル一台を代金一三五〇万円で新たに購入していること、<4>解散、清算又は破算手続が行われた事実が認められないことに照らすと、本件課税処分当時、原告が八色産業に対し求償権の行使ができない状況にあったとは到底認められない。
また、原告の主張する建設仮勘定については、新潟県南魚沼郡大和町大字一村尾二二七四ほかの土地の造成費用であり、原告が主張するような単なる砂利採取跡の埋め戻し費用ではない。法三八条一項の規定により、土地の造成費用は、その土地の譲渡所得の金額の計算上控除する土地の取得費となるから、これを建設仮勘定とした八色産業の帳簿処理に誤りはなく、したがって、建設仮勘定の経費への計上漏れがあるとの原告の主張には理由がない。
理由
一 請求原因及び抗弁について
請求原因事実及び抗弁事実は当事者間に争いがない。
二 再抗弁(所得税法六四条二項(保証債務の特例)の適用)について
1 再抗弁1(保証債務の成立)の事実は当事者間に争いがない。
2 再抗弁2(資産の譲渡及び保証債務の履行)の事実のうち、原告が開発公社に対し本件第一土地を代金二億七七二九万六〇七八円で売却し、その売却代金の一部をもって本件第二債務につき一億一〇〇五万円を弁済したことについては当事者間に争いがない。
そこで、原告が、右売却代金をもって本件第一債務を弁済したか否かについて判断するに、成立に争いのない乙第一〇号証ないし一五号証によれば、<1>平成三年一月二九日、開発公社が、原告及び八色産業に対し、本件第一土地の譲渡代金二億七七二九万六〇七八円及び八色産業の所有していた土地及び工作物の譲渡代金等五一四一万一九二二円の合計三億二八七〇万八〇〇〇円を小切手一〇枚で支払い、同金額が、同日、別表五の小切手一〇枚の内訳欄記載のとおり分配されたこと、<2>同日、八色産業が、<1>の三億二八七〇万八〇〇〇円のうち、五一四一万一九二二円を土地売却代金等の入金として、一億七一九四万八〇七八円を原告からの長期借入金の入金としてそれぞれ振替伝票を起票した上、同社の債務の支払いについて、別表五経理処理欄記載のとおりの経理処理をしたこと、<3>同日、新潟縣信が、八色産業に対し、本件第一債務の弁済金として一億五八八〇万七〇〇〇円を受領した旨の受領書を発行したこと、<4>同日、小千谷産業が、八色産業に対し、本件第二債務の弁済金として一億一〇〇五万円を領収した旨の受領書を発行したことが認められ、これらの事実を総合すると、原告は、本件第一土地の譲渡代金二億七七二九万六〇七八円の一部である一億七一九四万八〇七八円を八色産業に貸し付け、その後、八色産業はこれを資金とするなどして本件第一債務の支払いをしたものと認められる。そうすると、原告の本件第一土地の譲渡は、主債務者である八色産業の資金運用のためにされたものというべきで保証債務履行のためにされたものであるということはできない。
原告は、課税については実質課税の原則が貫徹されねばならないとし、本件第一土地の譲渡は、実質的には保証債務履行のためにされたものであるから、本件においても法六四条二項が運用されるべきである旨主張する。しかし、法六四条二項の保証債務の特例は、保証人が代位弁済をしたところ求償権の行使が不能となったという特別の事情がある場合の例外的規定であるから、保証人が主債務者に対して債務弁済の資金を貸し付けたところその貸付金の返済が滞ったというような場合にまで、その経済的実質に変わりがないとの理由で右規定を拡張して適用すべきものと解することはできない。そして、本件においては、前記のとおり、新潟縣信及び小千谷産業は八色産業に対して受領書を発行し、八色産業は原告からの長期借入金として経理処理をしているものであり、主債務者である八色産業自身が返済するという法形式を選択した方が、八色産業が以後金融機関から融資を受ける際に有利であるなどの八色産業にとっての利点も想定できることを併せ考えると、右一連の処理は、新潟縣信ないし小千谷産業と八色産業と原告との間において、原告から八色産業への金銭貸付及び八色産業から新潟縣信ないし小千谷産業への弁済という法形式を意識的に選択したものというべきであり、単に形式的便宜的なものということはできない。したがって、原告の右主張は採用することができない。
3 再抗弁3(求償権行使の不能)について
(一) 法六四条二項にいう「求償権を行使することができないこととなったとき」とは、当該請求債権の相手方である主たる債務者に付いて、破産宣告や和議開始決定を受けるかまたは失踪、事業閉鎖等の事実が発生したこと、あるいは債務超過の状態が相当期間継続し、金融機関や大口債権者の協力を得られないため事業再建の見込みがないこと、その他これに準ずるような事情により、求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になった場合をいうものと解するのが相当である。
(二) これを本件についてみるに、成立に争いのない甲第九号証の一、二並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証ないし第八号証、第一一号証及び第一二号証の一ないし四によれば、一方において、八色産業が、<1>平成三年三月期において一億二二八九万二九三二円、平成四年三月期において八三四五万七九九一円、平成五年三月期において七二四一万一七九〇円、平成六年三月期において七一〇三万三六三七円の各繰越損失を計上していたこと、<2>平成五年九月及び平成六年五月、同社が所有する土地建物等一六件の不動産につき小千谷産業から強制競売の申立てを受け、平成八年には本店事務所所在地の土地建物が落札されたこと、<3>平成三年から平成六年にかけて、簿外において、六日町信用株式会社及び小千谷産業に対し、別表六簿外支払利息欄記載のとおりの支払利息債務を負担していたことが認められる。
しかし、他方、甲第一二号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一号証及び第一九号証ないし第二一号証並びに弁論の全趣旨によれば、八色産業は、<4>別表六借入金残高欄記載のとおり、原告からの借入金残高が、平成三年三月期から平成六年三月期までの三年間で約半分に減少していること、<5>別表六売上高欄及び決算上の当期利益欄記載のとおり平成三年一月二九日以降も事業を継続して売上及び当期利益を計上しており、前記<3>簿外支払利息が存していた点を考慮しても、同表差引実際当期利益欄記載のとおり、平成四年三月期には三四九一万五二二〇円、平成五年三月期には五六一万六九三六円の利益を上げていたこと、<6>平成三年四月一三日、新潟県南魚沼郡大和町一村尾二二八三―一六の土地を二〇〇万円で、平成四年九月二七日、新潟県南魚沼郡大和町一村尾二二八三―一七の土地を二六〇万円でそれぞれ購入し、平成六年にパワーシャベル一台を代金一三五〇万円で新たに購入していること、<7>解散、清算又は破算手続が行われた事実はないことがそれぞれ認められる。
原告は、八色産業の各事業年度の貸借対照表中、建設仮勘定科目に計上している金額は、砂利採取許可の条件である砂利採取跡の埋め戻し費用であり、本来売上に付随して経費に振り替えて計上すべきものを失念していたものであるから、売上高及び当期利益の計算においては右金額を控除するべきである旨主張し、証人高橋誠一もこれに沿う証言をする。しかし、成立に争いのない乙第二二号証によれば、右の建設仮勘定科目の金額は、八色産業が現在所有する新潟県南魚沼郡大和町大字一村尾二二七四ほかの土地(以下「一村尾土地」という。)の造成費用として計上されたものであることが認められるところ、土地の造成費用は法三八条一項により当該土地の譲渡所得の金額の計算上控除する土地の取得費となるものであるから、これを建設仮勘定として計上し経費に計上しなかった八色産業の帳簿処理には誤りはないというべきである。したがって、原告の右主張は採用できない(なお、右の一村尾土地の造成費として建設仮勘定に計上した経緯について、証人高橋は、実際は他の土地の埋め戻しにかかった費用の分をも全て一村尾土地の造成費用として帳簿処理したものである旨証言するが、これを裏付ける客観的な証拠は全くなく、右証言をたやすく信用することはできない。)。
以上の事実関係を併せ考えると、本件課税処分当時、原告が八色産業に対し求償権を行使したとしても八色産業が直ちにこれに応じることは資金的に困難であったということができるとしてもなお、右の当時、原告が八色産業に対して求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実な状況まで至っていたものと認めるには不十分であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仙波英躬 裁判官 飯塚圭一 裁判官 古谷慎吾)
別紙一
物件目録(一)
(注) 各物件の所在、地番、地目及び地積はいずれも平成三年一月二九日時点のものである。
一 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六三番
地目 雑種地
地積 二八七七・〇〇平方メートル
二 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六四番一
地目 雑種地
地積 一一六五・〇〇平方メートル
三 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六四番二
地目 雑種地
地積 九〇〇・〇〇平方メートル
四 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六四番三
地目 雑種地
地積 九〇〇・〇〇平方メートル
五 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六五番一
地目 雑種地
地積 二一六〇・〇〇平方メートル
六 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六五番二
地目 雑種地
地積 八三二・〇〇平方メートル
七 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六六番
地目 雑種地
地積 三〇一〇・〇〇平方メートル
八 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六七番
地目 雑種地
地積 二九二四・〇〇平方メートル
九 所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六六八番
地目 雑種地
地積 三一七六・〇〇平方メートル
別紙二
物件目録(二)
(注) 物件の所在、地番、地目及び地積はいずれも平成三年四月二三日時点のものである。
所在 新潟県南魚沼郡大和町大字浦佐字浅地
地番 三六八五番二
地目 雑種地
地積 三五〇・〇二平方メートル
別表一
平成三年分 所得税の課税処分の経緯
<省略>
別表二
有限会社八色産業実際当期利益(原告の主張)
<省略>
別表三 本件計算明細書の記載内容
<省略>
別表四
八色産業の原告からの借入金残高及び当期利益(被告の主張)
<省略>
別表五
<省略>
別表六
八色産業の原告からの借入金残高、売上高及び当期利益(当裁判所の判断)
<省略>